2015-12-13

「このBLがやばい!2016」ランクイン

拙著「彩雲の城」が
「このBLがやばい!2016」にランクインいたしました。
詳細はまた後日お知らせさせていただきますが、
応援、ご投票くださった皆様のおかげです。
つたない物語をかわいがってくださって本当にありがとうございます。
これからも精進して参りますので、どうぞよろしくお願いいたします!

心ばかりのお礼ですが、SSをご用意いたしました。
秋山整備員による「搭乗員覚書」
Twitterアンケートの投票結果で、HP公開は
月光ペアの琴平恒となりました。
楽しんでいただけたら嬉しいです。

本当にありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

搭乗員覚書(部分)

 

 

夜間戦闘機《月光》 琴平恒について
■琴平恒一飛の用件

 

 

 

 

 

 

 

搭乗員が出撃から帰還して整備場に現れるのは、たいがい厚谷・琴平月光ペアが一番だ。
「おい、秋山。今日は速かった。今日は速かったぞ!!」
正確には琴平恒が一番早く、ペアだからそれに厚谷六郎がついてくるという形だ。
戦闘も爆撃も夜間攻撃も行う《月光》だ。だからといってそれぞれの力が三分の一になることはない。戦闘をさせれば零戦なみに落としてくるし、爆撃も艦爆と遜色がない。夜間攻撃は本領発揮の一人舞台だ。
大活躍の《十連星》。隊で最も尊重されて、ちやほや世話を焼かれて然るべき指折りの熟練搭乗員なのだが、新米搭乗員より整備場に来るのが早い。戦闘を終えた自分の搭乗機が無事かどうかを確かめにやってくるのだ。
だから整備員はみな慌てて月光の整備にかかり、傷の修復に必死になった。なぜなら琴平は、この月光を自分の赤ん坊のように可愛がっていて、機銃の掠れあとにふうふうと息を吹きかけ、擦り傷のように手で撫でてやるのだ。塗料が剥げたくらいでそれだ。抉れたり穴が開きでもしたら塞いだあとも、本当に大丈夫か、全体のバランスが狂っていないか、振動でどこかがおかしくなっていないか、ネジが緩んでいないかとしつこくしつこく訊いてくる。大丈夫だと言ってもなかなか納得せず、おろおろと飛行機の周りをうろつく。一人が大丈夫だと言えば、また別の整備員を捕まえてどこか悪くないかと訊いている。新しいオイルを入れてやったり、計器を特別に磨いてやったりしなければ彼の機嫌は直らない。
大きな傷なら搭乗員に報告して意見などを求めなければならないが、かすり傷までいちいち心配されては仕事が進まない。琴平が来る前に、気がつかれないように急いで塗料を塗り、微かなアンテナの曲がりを直す。今日は辛うじて間に合ったようだ。ちなみに機体や翼に穴を開けてしまった日は、整備場の隅に座り込んでしょげている。
こんな男のペアは大変だろうと基地中の皆が心配するところだが、当の厚谷六郎は大して苦痛ではないようだ。
――いつもうちの操縦員がご迷惑をおかけします。
そう言って、琴平にできない偵察員の任務を側で淡々とこなす。「琴平が干からびそうにしょげているぞ」と言っても、「あとで連れて帰りますので放っておいて大丈夫です」と言う。冷たすぎもせず構い過ぎることもない。生まれたときから一緒にいるようなまさに《適宜》なあしらい方だ。
その恒というのは、喧嘩っ早いともっぱらの噂だが、秋山が知る限りの彼はそうでもなく、ちょっかいをかけられないかぎり、自分から喧嘩を吹っかけているのは見たことがない。
彼は空から降ってきたような男だというのが秋山の所感だ。飛行機に生まれてくるはずの男が、上空でたまたま何らかの手違いを起こし、赤ん坊の身体に入って生まれてきたのではないかとときどき思う。
ただ飛行機好きなのとはちょっと違う。秋山が翼を愛して止まない理由の根源のようなものが、彼の中には煌めいている。
かわいらしい。整備員の秋山の目からしても、航空機と直接喋っているようだ。
「俺のほうが速かった! こうだぞ? こう! こう、ぎゅーんとなってな? 俺が下降しているときに敵機が横からだだだだだだ! って。きゅーんきゅーんばりばりばり! ばりばりばばばばば! ってなったとき、六郎が「右旋回だ!」と急に言いやがるから俺は必死で操縦桿をな、ぐぎいいい! って。ぐぎいいいい! だぞ!? すげえだろう! ぐぎいいいい! とな」
恒は飛ぶことに熱中している。
いかに速く飛んだか、高く低く飛行できたか。敵機より速く小回りに旋回し、技を競って敵機の後ろについたときなどはそれはそれは大喜びだった。撃墜や機銃は二の次だ。もちろん日本兵としての志はあるのだが、彼が喜ぶのはいかに上手く、困難をねじ伏せ、爽快に空を飛んだかだ。やはり飛行機のようだった。
身体を起こしたり斜めにしたり、大きな身振りで彼は続ける。
「それでな、そのあとは下降競争だ。俺は月光を横滑りさせて、敵が上がりたくなるのを待っていた。そしたら敵がたまらずこう、こうなったからな!」
と言って、手をあちこちにさしだしてくねくねと動かす。
「こうくっくっ! とやって、きゅううんと、きゅううううんと、俺は機体を捻ったわけだ!」
「うん。それで何の用だ?」
「燃料入れてくれ」
ときどき整備の邪魔になる。
六郎は、他の整備士と飛行後の話し合いをしていた。

 

 

 

END

 

 


 

ご愛読ありがとうございます!

記事はまた改めて整えに参ります。

 

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