2016-02-26

「プルメリアのころ。」解説と思い出

1945シリーズ最終巻「プルメリアのころ。」が
おかげさまで本日無事、発売となりました。
非常な運にも恵まれ、五冊も発刊していただけたのは
ご購読くださり、応援してくださった皆様のおかげです。ありがとうございます。

「プルメリアのころ。」についてちょっとだけ解説と思い出話を。
「プルメリアのころ。」と「蒼穹のローレライ」について、
ネタバレしますので、未読のかたはお気をつけください。

他のラバウル組と比べて、千歳たちはけっこう前半に投入され、
早い段階で帰還しています。南方が好調だった頃です。

もともとこの話は同人誌だったのですが、商業誌に移行するのが
かなり困難でした。というのが、これがなかなか担当さんに伝わらなかったからです。
「六郎たちはもっと大変そうでおなかが空いていてフラフラでした」
戦地なので大変なのには違いありませんが
この頃はまだ兵站線が生きています。間宮も来ています。料亭やバーなんかもあります。
「空襲とか」
この頃はまだ制空権が優勢なので、ほとんど空襲はありません。
「戦争物なのに悲愴さが足りません」
この頃はまだ負け戦ではないので勢いが残っています。航空機もあります。

はっきりした日付を書ければよかったのですが、お話の性質上それができず、
だいぶん改稿したのですが、どうにもこれが伝わらず
同人誌の入稿準備をしていた「ローレライ」の原稿を出して、
「プルメリアは、ローレライで言う@Pから@Pまでの話なので、まだ状況はそんなに悲愴ではないです」
と説明しましたら、
「把握しました。ローレライも発行しましょう」
あっ、はい。
となりました。瓢箪から駒です。
千歳たちがするっと出ていたら、塁たちは商業誌になりませんでした。
結果的に運が良かったと、ただそれに尽きます。
そんなわけで、小一年改稿し、千歳(Ver.4)までできましたが、
理解が得られたので同人誌に戻って再改稿となりました。
制作側はこのようにして、妥協せずによい作品を作ろうと頑張っています。
楽しんでいただけましたら嬉しいです。
根気よく付き合ってくださる担当氏には心から御礼を申し上げます。
そして「プルメリアのほうがかわいいので、トリにしましょう」ということになり
めでたく本日を迎えた次第です。

ラバウルは、栄光と滅亡を短時間で味わった基地です。
有名な話として、
昨年亡くなられた水木しげる氏が、戦後、戦争物の漫画雑誌を創刊したものの、売れ行きが芳しくない。
そこで元零戦搭乗員で、すでに本を上梓なさっていた坂井三郎氏に相談したところ、
「勝った話を書かなければ読んでもらえない」と仰ったそうです。
しかし、坂井氏は南方が強かった頃に着任され、悪くなる前に南方を離れた方で、
一方、水木氏は戦争後期、ラバウルより南の陸上で、壮絶な戦闘を経験なさった方です。
「勝った話は描けない」と仰ったということでした。
同じ戦争で、同じ地域でも、大きく状況が違うことがあったようです。

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イラストのこぼれ話。
口絵にしていただいたカラーイラストについて。
同人誌の段階で牧先生にお願いしました作品で、
「千歳の敬礼を下手くそにしてください」とお願いしました。
そしたらどうでしょう!
脇は甘いわ身体はまっすぐじゃないわ手のひらは見えてるわで、
非常に細やかに洗練された敬礼の下手くそさです。
ほんの僅かな違いでこの下手くそさです。惚れ惚れします。
マーベラス級のチャーミングさです。これが千歳です。
二人の違いを是非じっくりとご覧くださいませ。カズイはかっこいいです。
そして121Pに天使がいます。
千歳の六月の用水路の水のようなぬるさはもう輝かんばかりです。

さて
おかげさまで、シリーズを無事お届けでき、
ほっとするのと同時に、寂しい気持ちでいっぱいです。
もう少し、同人誌などで番外編などをお届けできるかと思いますので
お目にかかりましたら、どうぞよろしくお願いいたします。
末筆になりますが、
シリーズ全部を通してすばらしい挿絵で彩ってくださった牧先生、
版元様、担当様、発行に携わってくれた関係者様に心より御礼申し上げます。
苦労は、本を読んでくださった読者様によって
すべて報われました。ありがとうございました。

2016春 桜までもうひと息のころ。

尾上与一

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