2016-04-01

「蒼穹のローレライ」SS「蟻の精と白鳥の話」

*ちるちるアワード2016での10位感謝SSその2です。
話せば長い事情になるのですが、白鳥はウミガメの子で、恒を父上だと思っています。
蟻は……蟻の精なのですが、詳しくは同人誌「青空のローレライ」をご覧ください。
平素、ひとかたならぬ応援を本当にありがとうございます。……蟻だけに!!!

「浅群さん、っているでしょう」
と蟻の精が言った。
「お名前は存じ上げませんが」
と波打ち際から半分身体を出した白鳥は答える。
ざざん……、ざざん……、と泡を含んだ波が打ち寄せている。風が温かい、青い天気の気持ちいい浜辺だ。
「そうなんですか、浅群さんっていう人がいるんですよ」
そうなのか、と白鳥は思った。陸上にいる人と言えば父上と母上しか知らないのだが、他に名前がある人がいてもおかしくはない。
「浅群さんは……私たちの恩人なのです」
蟻の精はうっとりと言った。
「そうですか、父上も私の恩人です」
と負けずに白鳥も答えた。
「私は父の上の手のひらで生まれて、白鳥という名前も父上がつけてくださったのです」
白鳥が蟻の精に自慢すると、蟻の精はふうん、と笑顔でゆるい相づちを打った。
「私たちなどは、未だに毎日助けられているのですよ」
「毎日?」
「ええ。私たちが地上でからからになっていて、今にもごま粒になりそうなとき」
チョウザメの卵のようなものであろうかと、白鳥は考えながら蟻の精の話を聞く。
「浅群さんは、好き嫌いがあって、嫌いなものを地面に落とすのです」
「それは行儀が悪いことではないのですか?」
「そのせいで、我々何千という蟻が」
「蟻が」
「生き延びたのです」
「……それは……尊いですね」
白鳥を助けてくれた父の偉業とは比ぶるべくもないけれど、自分は一人で相手は何千だ。並大抵のことではない。
「浅群さんが落とす変なお芋のおいしいこと」
「そうなのですか」
「トカゲの身などたまりませんね」
「……そうなのですか……」
「それでは、そろそろ戻りますね、白鳥さん」
「はい。それではまた浜辺にお越しのときはお声をおかけください、蟻の精さん」
「ええ。今日は話を聞いてくださってありがとうございました」
と言って蟻の精はさっと手を挙げた。
「蟻だけに」
「は……はい……」
この浜辺にはいろんな生きものがいるが、なかなかあの蟻の精の調子だけは掴めないと思う白鳥なのだった。

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