■Present for you



「冬色ドロップス」番外編。
ネタバレします。しかもあまりトヨと伊吹はいちゃいちゃしてません。いや、してるんですかね。
クリスマスの洋平のお話です。









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 「どういうことなんだ、これ」
 部屋の入り口に立った洋平は、トヨの部屋に用意されたパーティー用のローテーブルを見て呻いた。
 今日はクリスマス会だ。今年はトヨ主催で、トヨの母がメインディッシュとなるカレーを作り、伊吹はフライドチキンを買ってくることになっていた。ケーキは一人四百円出しで、主催のトヨが店に買いにゆく。洋平はピザの担当だ。ちゃんとピザ屋に予約をして、トヨに言われていたチーズとコーンをトッピングしたLサイズのピザを二枚買って来た。
 それでなくとも今年は豪勢だなと思っていたのに、テーブルの上はそれどころではなかった。
 シャトル鍋に入ったカレーと炊飯器まではいいのだが、真っ白のまるまんまホールのクリスマスケーキはどう考えたって千二百円では買えない。フライドチキンもクリスマスバーレルサイズだ。しかもふたつだ。一体何本入っているのだろう。
「いや……、ちょっと、奮発しようかな、なんて」
 後ろにいたトヨが、いいにくそうに言う。
 ありがたいことだが十五年間の付き合いの中で今までトヨがそんなことをしたことは一度もなかった。トヨは優しく義理堅いがその分几帳面で、予算を立てたら上回らない程度にカッチリ買い物をする人間だ。398円のケーキを買ったらレシートとともに二円のおつりを返してくるタイプだった。高校に入り、伊吹が仲間に加わってから余計厳密になった。三人だから当然割り切れない金額が増えてゆく。一円まで割って最大二円の誤差を「前回俺が多くもらったから」と言って、ことあるたびに順番に分配するヤツだった。
 心当たりは少しだけあった。
「――……もしかして、俺、祝われてるの?」
 洋平は、部屋の入り口に立ったまま、テーブルの横に正座している伊吹に訊ねた。
 クリスマス前に洋平に彼女ができた。トヨも伊吹もそれはそれは祝福してくれて、そのお返しがこのトッピング増量ピザだ。
 伊吹は何とも付かない笑顔を浮かべた。
「いや……祝ってるっているかその、祝ってほしいっていうか……」
 奥歯に物が挟まったような返事だ。
「まあ、入れよ、洋平」
「あ、ああ」
 トヨに背中を押されて、洋平はトヨの部屋に入り、テーブルの前に座った。
 ファンタの大きいペットボトルの隣にシャンパンっぽい炭酸飲料が並んでいる。容れものもいつものコップや湯飲みではなくガラスのグラスだ。トヨの母親が山盛りのグリーンサラダまで用意してくれているから、本当のパーティーみたいだった。
「お……俺、なんかしたっけ……?」
 何となくつられて正座で座ってしまっていた洋平は二人の顔色を代わる代わる窺いながら訊ねた。
 宮本と付き合いはじめたのを祝うにしても、こんなに豪華なのはあんまりだし、十月に技能検定にひとつ受かったけれど、それを祝われるには遅すぎる。誕生日はまだで、最近特別すばらしい話もない。
 トヨは伊吹と先ほどからチラチラ視線を交わしている。何か言いたげなのはわかったが内容の想像が付かないと思っていると、トヨが洋平に言った。
「黙ってて、悪かったけど、その……伊吹と付き合うことにしたから」
「え? 俺を外すってこと……?」
 突然の申し出に、ぽかんと問い返してしまった。
 ずっと三人でうまくやってきた。トヨが伊吹と最近仲がいいのも知っている。だからといって自分がこれきり彼らに誘われないというなら理由がわからない。確かに自分は最近何につけても宮本優先で、彼らと一緒に登下校しなくなったし、土日も宮本と遊んでばかりいたが、ちゃんと必要なことはメールとかで連絡も取っていたし、ラインを返さないことだって、ときどきしかない。
 洋平は慌てて言い訳をした。
「確かに俺は最近、宮本とばっかり一緒にいてさ、映画とかゲームとかつきあえなかったけど」
「そうじゃなくて、三日前から伊吹とつきあってるんだよ。洋平に言うのが遅くなって、悪かった」
「は? 伊吹とつきあってるのは一年のときからだろ? 記憶喪失か? トヨ」
「いやそうじゃないんだ、その、トヨと、あの……、お付きあいしてるっていうか」
 控えめに伊吹が口を挟む。洋平は徐々にピントが合ってゆくような頭の中に目を凝らし、ゆっくりと彼らの言っていることを理解した。
 もしかして、トヨと伊吹が恋人としてつきあっているということだろうか。
 なあんだ、と失笑する思いだった。思い当たったらこの状況が腑に落ちた。何でこんなにパーティーをデラックスにしたのかは知らないが、これに乗じた冗談だ。
 洋平はてきとうに笑った。
「ぜんぜん面白くない、ネタなら少しは捻れよ。しかもわかりにくいよ」
 どうせなら「明日からお前を仲間はずれにする」と言った方がドッキリとしては質が上だ。
 だが、てっきり見破られて笑い出すと思った彼らは困った笑顔を浮かべ、また相談するような視線を交わしている。嘘だと言って笑い出す気配はなさそうだ。
 伊吹に「マジで?」と訊いてみた。
 トヨと伊吹が付き合っている。付き合うと言ったって、男同士で何をするのだろう。
 伊吹はうん、と頷いたが洋平の心はまったくスッキリしない。仕方がないのでトヨに聞いてみた。
「マジで?」
 トヨも、うん。と答える。その様子を見て、洋平は少し失望した気分になった。トヨは生真面目だがギャグのセンスはある方だと思っていた。そんな、わかりにくいしすぐに見破られる冗談などで自分のウケが取れると思われていたなら見くびられたものだ。
 仕方がないな、と、洋平は心中ため息をついた。自分がここに到着する前にふたりで一生懸命考えたネタなのだろうが出来映えは残念だ。
 本当にこいつらは自分がいないと、どんどん雑談のレベルが下がってゆくなと心配しながら、洋平はとりあえずピザのために開けられていたテーブルの上の空間にピザの箱を置き、正座の足を胡座に組み直した。
「サラダ、すげえ旨そうじゃん。おばさんが作ってくれたの? それ、何て言うのポプリ? 黄色いピーマン。うちもそういうの使ったらって、オカンに言ったらさ、普通のピーマンと色が違うだけだっていうんだよ。それでな……」
「パプリカ」と小さな声で言う伊吹に「うんそうそうそれ」と答えて、今度は最近、洋平の裏の家の大学生が買ったバイクの話をした。多分三十万円はしたはずで、自分で買ったはずだが、かなり時給が良くなければ厳しそうだ、どこでバイトしたんだろうな、とか。……とか。
 洋平はどうしても思考の端っこを引っ張り続ける考えを無視できず、トヨに問いかけた。
「さっきの話なんだけど」
 二人が自分を見る目が何となく、申し訳なさそうというか困っていそうだとか思っていたが、どうしても洋平も引っかかるところがあって、話を元に戻すことにした。
「……マジでマジで?」
 トヨと伊吹が付き合っているという話だ。
「うん」
 二人は揃って頷いた。ようやく話が通じて安堵しているような表情だった。
 頭の中で理解できても、すぐにぴんとは来ない。
 好き合って付き合っているということだろうか。
 自分の親友たち二人が、自分と宮本のように。
 でも二人とも洋平が理解するのを待っているような表情だった。ときおりちらりと互いを見合って、洋平の反応を緊張して待っているようにも見えた。
 洋平は少し考え込んだ。
「ホモ……とかいうやつ……?」
 こわごわと小声で訊ねてみる。トヨは困ったような顔で答えた。
「まあ、普通はそう言うかもしれない」
「……」
 なんで。と切り出しかけて洋平はやめた。
 彼らがホモでもトヨはトヨで伊吹は伊吹だ。それより慎重な彼らが自分に打ち明けてくれたことこそを喜ぶべきなのかもしれない。
 伊吹が不安そうな顔をしている。「喧嘩になっても辞さない」というときのトヨの顔は小さい頃と変わらなかった。
 戸惑う、というかほぼ動転に近いくらい心の中はぐるぐるするが、彼らを罵倒しようとか、やめとけと言うとか、そんな考えは浮かばなかった。
 親友二人が仲良くて幸せだ。多分、このあいだよりもっと。
 こめかみを掻きながら、何かを訊こうと思ったが、具体的に何が聞きたいのか分からない。まあとりあえず幸せなんだからいいだろうと洋平は思った。少なくとも寂しがったり困っていたり泣いたりするよりずっといい。
「あー……、えと、おめでとう、……なわけ?」
 戸惑いながら洋平は訊ねてみた。
 多分喜ばしいことのはずだ。たぶん。前例を知らないから分からないが、彼らが理不尽でないならそれでいい。
「うん、ありがとう」
 トヨと伊吹はまた視線を交わして、ふたりで一緒に洋平に頷いた。
 その様子を見て、安心してしまった。しかし。
「――――マジでー……?」
 洋平は呟いてテーブルに頭を抱える。
 こんなに一緒にいたのに、なんで気がつかなかったんだろう。
 親友のことなのに、なんで分かってやれなかったんだろう。






****







 洋平は、小皿に山のように盛った野菜をフォークでつつきながらため息をついた。
「あーバレタのね、そうね」
「うん、ごめん」
 トヨが苦笑いをする。伊吹に隠していた事故の真相がバレたということだった。トヨが喋ったのではなく、どうやら伊吹が推理したらしい。洋平も、自分かトヨが喋らない限りはバレないと思っていたから、伊吹の勘の良さに驚いてしまった。しかもとどめは宮本が一枚噛んでいるという。
 宮本を叱らないでやってくれと伊吹は言った。叱る理由は特にないと思った。
「いつからだよ」
 と洋平はトヨに訊いた。おかしい、と思ったのはクリスマス前に買い物に行ったときだ。この二人、最近やけに仲がいいとは思ったが、恋人独特のベタベタした甘さを感じなかったからそんなものかとスルーしてしまった。
「三日前、って言っただろ?」
 面倒くさそうにトヨが言う。買い物よりあとの日のことのようだ。
「すぐに洋平に言おうって、トヨは言ったんだけど、俺が待ってもらった。ちゃんと話す気はあったんだけど、……ちょっと、勇気が要るから」
「まあそりゃ、理解する」
 トヨとはおねしょの罪をなすりつけあった仲で、エロ本の折り目まで知っているくらい隠しごとがないのだが、確かに男と付き合うと告白するのは勇気が要ったことだろう。
 彼らが悩んでいた三日間が友情と信頼に対して長いか短いかは置いといて、とりあえず、と二人の友人を洋平は眺めた。
「嬉しいよ。仲良くやれよな。でも俺は外すなよ?」
 自分たちの一部に「恋人」という関係が増えるのは歓迎するが、それを理由に親友を二人も失いたくはない。
「もちろん。本当にありがとう、洋平」
「おまえ、そういうとこすぐ改まるよな。恥ずかしいって」
「別にいいじゃん。折り目は大切だろ?」
「俺からも礼を言うよ。ありがとう」
 伊吹にまで重ねられて、なんだかこっちが照れてしまう。
 洋平はため息をついた。
「なるほど。それでお祝いパーティーでデラックスなんだな?」
 トヨに聞くとトヨは言い訳っぽい声音で頭を掻いた。
「いや、お祝いっていうか俺たちも幸せになってごめんっていうか。洋平に彼女ができたからってコーンとチーズトッピングさせたし。だから俺の小遣い足してケーキデラックスにしといた」
「俺も気持ちだけ増量しといた」
 と伊吹は言うが、気持ちだけでバーレル一つ以上増量だ。
 もしかしてのろけられているのだろうかと思いながら、自分が持ってきたピザの箱を眺めて洋平は言った。
「じゃあ今日は、お祝いってことでぱーっとやるか」
 もともと特盛りのところに来て実はサラミも乗せておいたとちょっと言いにくくなってしまった。




 男子高校生がいくら食べ盛りだと言っても、特盛りピザ二枚、ケーキワンホール、クリスマスバーレルふたつに、洗面器の量のサラダとそもそもメインディッシュのカレーは、三人では完食できなかった。カレー以外は三等分してお持ち帰りだ。母が喜ぶ。
 食事が済んだら、プレゼント交換の時間だ。
「月並みだけどごめん」
 そう言ってトヨと伊吹が渡してくれたのは、グリーンのマフラーだ。黄色に近いオリーブグリーン。さすがにトヨは洋平が好きな色を知っているし、伊吹が交じったせいか地模様のデザインがちょっとオシャレだった。
 伊吹はトヨに箱を差し出した。中味は透明のスマホスタンドだ。
「音楽聴きやすいと思って」
 トヨから伊吹には、オレンジ色の革張りっぽいバインダーだった。学校のプリントを挟むとオシャレだ。
「俺からはこれな」
 洋平は、緑色と赤の包装紙で包まれた本をそれぞれ一冊ずつトヨと伊吹に差し出した。
「洋平から本?」
 初めてのことに、トヨが怪訝な顔をする。
「俺だって本くらい選ぶ」
 トヨと伊吹が無言で包みを開けると、中から同じ雰囲気の本が出てくる。
「《仮面ライダー図鑑》……」
 伊吹が表紙の文字を読み上げた。
「しかも俺のvol2なんだけど……」
 と言って伊吹の手元を覗き込むのはトヨだ。
「トヨに二年がかりで贈っても良かったけど、せっかくだからふたりでかえっこしながら見てくれ」
「お前、まだ諦めてなかったのか」
 残念そうな声でトヨが言う。
「ああ。来年の仮面ライダーはつきあえよ? そして映画のブルーレイも見ろ」
 小さい頃はトヨも好きだったのに、「最近の仮面ライダー、分からなくなった」といってつきあってくれなくなってから五年くらいにもなるだろうか。毎年新シリーズが始まるから見ろと言っても「間が抜けたら見たくない」とトヨが言うものだから、いつか図鑑を贈ろうと機会をうかがっていたら二巻が出てしまった。そこに現れたのが伊吹だ。本屋でこの本が並んでいるのを見たとき、プレゼントはこれしかないと、眩しいくらいに閃いたのだった。
「トヨは駄目かもしれないけど、伊吹には期待している」
 五年も説得に応じなかったトヨが、本を与えたからと言って新たに仮面ライダーに興味を持ってくれるかというと難しいが、伊吹は分からない。
 伊吹は、困惑した顔で本を見てから、両手で丁寧に持ってそっと洋平に差し出してきた。
「それならこれ、返すよ」
「お前までそんな事言うのか? 一応それ、クリスマスプレゼントだぞ?」
 洋平だって、すぐに伊吹が仮面ライダーに興味を持ってくれるとは思っていない。まずは読んでほしいのに、しかもクリスマスプレゼントなのに、表紙を見ただけで受け取らないのは酷い。
 伊吹は困った顔だが悪びれない声で洋平に言う。
「うん。分かってるけどこれ、宮本の仕事だろ?」
 洋平の隣で仮面ライダーを見るのは、これからはトヨと伊吹ではなく宮本だと伊吹は言う。
「え。……あ」
 突然、かああああっと、顔に血が上るのを感じて洋平が思わず手のひらで口許を塞ぐと、困った顔をした二人が、洋平の膝の上に重ねて図鑑を返してきた。









END









リア充爆発しろ。
本編からもペーパーからも溢れちゃったクリスマス会の顚末です。


話を聞いた宮本が
「友だちに、なんかすごく詳しいのがいるから聞いてみる!」と大変真面目な顔で飛び出そうとするのを
まって!と引き止めるのは洋平ではなく、
聞き耳を立てていた私たちのような人かもしれないと想像する今日この頃です。


20140203